面白いストーリーに欠かせないのは、魅力的なキャラクター。
でも一体どうすれば魅力的なキャラクターを作ることができるのでしょうか?
シナリオの教科書などでよく言われるのは、
「こうなったらいいなあという憧れ性」と「なんだ私と同じじゃないかという共通点」
をキャラクターに持たせるという方法です。(出典:新井一著「シナリオの基礎技術」)
しかし、「教わった通りに憧れ性と共通点を持たせたのに、今一つ深みにかけてしまう……」ということもあるのではないでしょうか。
そうしたときに見直したり付け加えたりしたい要素がキャラクターの「トラウマ」です。
「トラウマ類語辞典」(アンジェラ・アッカーマン+ベッカ・パグリッシ著、新田亨子訳、フィルムアート社)では、実に100を超える「トラウマ」の設定を紹介しています。
以下では、この辞典が「魅力あるキャラクター作り」にとても役立つことを紹介したいと思います。
キャラクターに深みをもたらす「トラウマ(心の傷)」
「トラウマ類語辞典」は、魅力あるキャラクターや感動的なストーリーを作るためにおすすめです。
類語辞典に記載されているような「トラウマ(心の傷)」をキャラクターに設定することは、表向きのストーリーの裏で進行している主人公の成長物語には欠かせないものであり、ストーリーに深みを持たせるものだからです。
ヒットした映画を思い浮かべると、主人公には必ず何かトラウマがあることに気づくのではないでしょうか。
両親を失っていたり…
恋人に裏切られたり…
後戻りができない罪を犯していたり…
例えば「スパイダーマン」や「ハリーポッター」などを思い浮かべてみてください。
主人公のピーターもハリーも幼いころに両親を失いどこか孤独を抱えた少年です。
表向きの大きなストーリーラインである「敵と戦い倒す」という流れに、主人公が「孤独を乗り越え勇気をもって前に進む」というもう一つのストーリーラインが絡んでいることに気づくのではないでしょうか。
魅力的なストーリーには下記のような2つのゴールに対するストーリーラインがあります。
OuterGoal(外面的な変化のゴール):敵を倒す、事件を解決するなど
InnerGoal(内面的な変化のゴール):孤独を乗り越える。トラウマを克服するなど
で構成されています。
「OuterGoal(外面的な変化のゴール)」に向かうストーリーラインは、主人公が行動を起こしていくストーリー、外面における変化を描くストーリーです。「InneGoal(内面的な変化のゴール)」に向かうストーリーラインは、主人公の心情・心の在り方が変化していくストーリー、内面における変化を描くストーリーラインです。
実は、見る人の心を大きく掴むストーリーラインは
InnerGoal(内面的な変化のゴール):トラウマを克服する
の方です。
この「InneGoal(内面的な変化のゴール):トラウマを克服する」を描くために、「トラウマの設定」というのはストーリー作りにおいて非常に大切なことと言えます。
「トラウマ類語辞典」を活用することで、自分の表現したいテーマに最適な「トラウマの設定」を練ることができます。
さまざまな「トラウマ」の事例を眺めるだけでも価値あり!
「トラウマ類語辞典」には、冒頭でも述べた通り、100を超えるトラウマのパターンが掲載されています。
多くのパターンがあるため、自分の作ろうとしているキャラクターに、いろいろなパターンを当てはめ、ブレーンストーミングをする際に役立ちます。
「トラウマ類語辞典」に掲載されているさまざまなトラウマのパターンは例えば次のようなものです。
◆犯罪被害のトラウマ
・殺人を目撃する
・ストーカーされる
…など
◆社会の不正や人生の苦難によるトラウマ
・いじめにあう
・冤罪
・解雇される
…など
◆幼少期のトラウマ
・依存症の親のもとで育つ
・幼い頃に暴力行為や自己を目撃する
・親からの拒絶
…など
しかも、それぞれのトラウマのより具体的な設定やそのトラウマによる性格の変化まで多くの事例を挙げてくれています。
例えば、「殺人を目撃する」というトラウマの場合、下記のようなキャラクター設定の詳細例が掲載されています。
【具体的な状況】
・家族間のもめ事が暴力沙汰になる
・道行人が強盗に頃われるところを目撃する
・構内で起きた銃撃事件でクラスメートが死ぬ……など
【キャラクターに生じる思い込み】
・事件を阻止するために自分は何ができたはず…
・愛する人を守ることもできない
・代わりに自分が死ぬべきだった……など
【キャラクターの行動基準の変化】
・自宅の防犯システムを強化する
・家族の安否や居場所が気になる
・防犯スプレーを常時携帯している……など
【このトラウマが作るキャラクター人格】
ポジティブな人格:用心深い、感謝の心がある、注意深い…
ネガティブな人格:冷淡、幼稚、支配的、引っ込み思案…など
さまざまな案を参考にしながら、キャラクターを練ることができます。
巻頭と巻末の付録がキャラクター作りの教材として秀逸
本編の事例を眺めるだけでも十分価値があるものの、巻頭の解説と巻末の付録が、意外に大変役に立ち、見逃せないポイントです。
巻頭は、心の傷によってキャラクターがどのような性格を持って、どのような目標や破滅に向かい、どのように人格が変化していくか、考えやすいように解説が加えられています。つまり、心の傷からどうやってストーリーを面白くするかが書かれています。
巻末には、キャラクターの変化を考察しやすくするためのフローチャートが用意されています。このフローチャートを使えば、キャラクター作りがしやすくなります。名作映画「シャイニング」「グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち」などがフローチャートの描き方のサンプルとして挙げられているため、とてもわかりやすく使いやすいものになっています。
この巻頭と巻末の付録がとても実用的なため、これを使うことで、より魅力あるキャラクター、奥行きのあるストーリーに作りあげることができるでしょう。
ほかにもいろいろ【すべての創作者のための類語辞典シリーズ】
ちなみに、この「トラウマ類語辞典」は、フィルムアート社の「すべての創作者必携の大ヒット類語辞典シリーズ」のうちの一冊です。ほかにも下記のようなお役立ち辞典があります。
「性格類語辞典(ポジティブ編)」
「性格類語辞典(ネガティブ編)」
「職業設定類語辞典」
「場面設定類語辞典」
「感情類語辞典」
先の「トラウマ類語辞典」以外で、キャラクター作りに役に立つのは、「性格類語辞典(ポジティブ編)」「性格類語辞典(ネガティブ編)」「職業設定類語辞典」です。
事例を眺めているだけで既存のアイデアを膨らましたり、新たなアイデアを生み出すのに役に立ちます。脚本だけでなく、漫画や小説などを書く人なら誰でもブレストなどに役立ちそうです。
機会があればぜひ活用してみてください。